人のことを熊なんて言った、あんたが悪いのよ 待ち時間に軽く読む短篇集・3(プレビュー)

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3編収録。

2014年11月に出版した作品です。 

 

人のことを熊なんて言った、あんたが悪いのよ(待ち時間に軽く読む短篇集・3)

 


【目次】 

○手

部屋の中に、突如現れた「手」。不気味な家系にまつわる因縁が、動き始める・・・

 

○人のことを熊なんて言った、あんたが悪いのよ

ダイエットのために、登山に来た、わたし。

通りすがりの登山者から「小熊ちゃーん、小熊、小熊」と馬鹿にされたことから、運命が反転しはじめ――道を踏み外していく。

 

○わたしを愛したまま、死んで

あたしのねーたんゎ。。。「天使」って呼ばれてます。。。

 


 


 真夜中。
 
 何かが顔をなでまわし、俺は目を覚ました。
 
 反射的に手で振り払い、ベッドの脇にあるライトをつけた。
 
 
 手だ。
 
 
 手が、ベッドの縁にあった。手首から上が、ない。
 
 ぼんやりとした頭で、混乱しながら俺はそれを見つめる。
 
 そして、手は、まるで大きなクモのように部屋中を動き回る。壁によじのぼり、天井を這いずり回った。時には、ぴょんぴょんと跳ね回る。 
 
 俺は、為すすべもなく、手が動く様子を見ていた。
 
 手は、やがて足下のほうから、にじりよってきた。俺はすかさず、足を引き寄せて、体育座りをする。
 
 ライトで照らされて、手が、はっきりと見える。女の手だ。細長い指、小さな手。
 
 
 どうすればいいんだ、ヤバい。夢でも見てんのか、俺。
 
 
「今、俺は夢を見ている。悪夢の中にいるだけで、これは本当のことじゃないんだ」と、俺は自己暗示をかけようとしたが、失敗した。
 
 手が、とうとう、生々しい感触で俺の体に這いずりよってきたからだ。
 
 夢じゃない。どう考えても、夢なんかじゃない。
 
 
 映画の中で見たタランチュラのように、手がモゾモゾとよじ登ってくる。とうとう、手が、俺の顔までやってきた。
 
 冷たい。
 
 冷やっとした、肌の感触に、俺はひたすらゾッとしていた。なんなんだ。なんなんだ、これ。
 
 
 
 手が俺の顔面を覆うと、俺は恐怖のあまり、意識を失った。
 
 
 
 翌朝、ベッドの上で目を覚ますと、俺は飛び起きて部屋中をひっくり返し、手が部屋の中にいないか確かめた。
 

 手は、いなくなっていた。
 
 
 俺はホッとして、床にへたりこんだ。
 
 時計を見ると、もう急いでも、会社には間に合わない時刻だった。だから、俺は開き直って、ゆっくりとコーヒーを飲んで、トーストを食べた。
 
 会社に着くと上司に嫌味を言われたが、「すみません」と謝って、それだけだった。すぐに昼休みになって、つきあっている同僚のリエとランチに出た。
 
「ねえ、ユウくん、今朝どうしたの? 寝坊した?」

「うん、昨日の夜……いろいろあってさ」

 俺は水を飲みながら、リエに言った。リエは23才、俺よりひとつ年下だ。告られて、つきあうことになった。話していて楽しいし、かわいいとは、思う。 
 
「なになに、その言い方? 何かありそうじゃん?」

「手が、さ……」

「手? 手って、この、手の手、だよね?」

 リエは自分の手のひらを、ヒラヒラとさせて言った。
 
 
 なんて説明すればいいんだ、と俺は内心、頭を抱えた。話しても、『精神科に行け』って結論になるだけだ。
 
「いや、何でもないよ」

「えー、話してよぉ。それとも、あたしに話せないこと?」

 リエはしつこく俺から聞き出そうとしたが、俺は話すつもりはなかった。だから、適当に話をそらして、ランチを過ごした。そして、さりげなくリエに頼みごとをしてみた。
 
「あ、あのさ」

「なーに?」

「今日……おまえんち、泊めてくれないかな?」

「えー? いきなり? 部屋ん中、散らかってるし、今日はうちの猫を病院に連れてくから、ダメ」

「そっか……」

 俺は、夜になると、またあの『手』が戻ってくるような気がして、自宅に帰りたくなかった。 
  
 リエにも断られ、ほかに行くあてもない。
 
 だから、仕事が終わったあと、まっすぐに帰宅した。
 
 
 俺は靴を脱ぐ前に、玄関から自分の部屋を眺め回した。もしも、奴がいたら、すぐに逃げるつもりだった。でも、見える範囲では、何もいない。いつもどおりの自分の部屋だ。
 
 恐る恐る、俺は部屋の中に入り、再び部屋中を捜索した。棚の隙間まで調べて、そこに何もないことを確認した。
 
 
 俺は風呂に入ったあと、風呂あがりのビールを飲みながら、テレビを見た。テレビの内容なんて、どうでもいい。名前もよくわからない芸人が、大声で笑って、賑やかさをまき散らしている。
 
 俺には今、人の声と賑やかさが、必要だった。電気を煌(こう)々(こう)とつけて、誰かほかの人の気配があれば、奴はやってこない気がしていた。
 
 
 だが、それは俺の願望なだけだった。
 
 
 手は、またやってきた。
 
 一体、どこから出てきたのか、俺にはわからない。
 
 
 手は、まず窓のふちを駆け上がると、カーテンレールを握って、勢い良く反対側の壁に飛んだ。もぞもぞと動きまわり、そして、また俺に向かってにじり寄ってくる。
 
「来んな! 何なんだよ……。おまえ、何なんだよ! 俺が何したっていうんだよ」

 俺が半分泣きながら、そいつに怒鳴ると、手はビクリ、と動きを止めた。
 
 
 言葉が、わかるのか?
 
 
 それで、俺は手に話しかけた。
 
「お、おまえさ、何なの? 俺に、何か用あんの?」

 すると、手は指をモジョモジョとさせ、何かを訴えかけようとしていた。が、当然、俺にはわからない。
 
 ふと、俺は思いついた。
 
 机の上のペンを、ペン先を出して紙と一緒に、手に向かって放り投げた。
 
 
「おまえ、字、書ける? 何か言いたいなら、それ、使えよ」

 手は、俺の言うことを理解してくれたのだろうか。
 
 まず、手はペンをつかむと、もどかしそうに動きながら紙に何かを書き始めた。
 
 俺は、手を見守る。
 
 
 手が紙の上から移動すると、俺は、恐る恐る近づいて、紙に書かれた文字を読んだ。歪んではいたが、それはたしかにひらがなだった。
 
『ゆう およめ もどる』 
 
「なんで、俺の名前、知ってんの?」

 俺が思わず、手に聞くと、手は、ピョンピョンと跳ねた。
 
 
 俺の知り合いなのか……? いや、手、だけの知り合いなんか、いるものか。
 
 
「誰? おまえ、誰?」

 俺は、新しい紙を差し出す。だが、手は文字を書こうとはせず、また俺の周りをまわるように這いずって、目を離した隙にいなくなっていた。
 

   
 俺は、本当におかしくなってしまったのかもしれない。
 
 
 翌日から、俺は至るところで『手』を、見かけるようになってしまった。
  
 通勤中、俺が乗る電車の中、吊り革にぶら下がっている奴を見た。俺以外、誰も奴には気づいていなかった。
 
 俺だけが、見えている。だとしたら、おかしいのは、俺だ。
 
 俺が奴をじっと見ると、奴はそれに気づいて、合図をするかのように指をモジョモジョと動かした。だから、俺はとりあえず奴を『モジョ美』、と呼ぶことにした。
 
 
 
 モジョ美は、あちこちに出現はするが、俺に危害を加える様子はなかった。けれども、日常生活でいきなり出てくると、頭がおかしくなりそうになる。
 
 リエとランチをしているときに、リエの肩にモジョ美が乗っかっているのを見て、女みたいな悲鳴を上げそうになった。

 
「モジョ美、おい!」

 俺はモジョ美を振り払おうと、リエの肩に手を伸ばした。モジョ美は素早く、姿を消す。

 

「え? 何? どうかしたの? あたしに何かついている? てか、モジョ美って誰?」

 

 

お試し版はここまでです。


  

 

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