聖域 ゾンビストーリーズ(プレビュー)

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この作品は小説です。

2013年12月に出版した作品です。 

 

聖域(ゾンビストーリーズ)


【作品紹介】
――暖かくて、守られている、子供のような幸せ。吹雪の音が聞こえるけれども、ここは安全地帯。 

「やつら」から隠れ暮らしてささやかなクリスマスパーティを楽しんでいた4人の男女。だが、聖なる夜、その均衡が崩れる。 
脱出し、安住の地を求めて旅立つも、その先で待ち受けていた悲劇とは――。 

オムニバス形式でおくる「ゾンビストーリーズ」第二弾。 

 


 

 エンドレスでクリスマスソングをかけながら、イルミネーションをかき集めて家中を飾る。今日はクリスマスパーティの予定だから。
 今年は雪の訪れが遅かったけれど、12月初旬には雪が積もって真っ白い世界になった。雪が積もっている方が、イルミネーションの光がとてもよく映える。
 
「退屈さには神々も旗を巻く」

 ニーチェ? でも、神様じゃなくったって、人間も退屈さには耐えられない。外に出るわけにはいかないから、部屋に閉じこもりきりだけど。自分でイベントを作って楽しまなきゃ、暇で気が狂いそう。

 冷凍しておいたとっておきのライムを輪切りにして、きりっと冷えたペリエに浮かべる。エビとシソのスパゲティに自家製パン、アップルパイも作る。七面鳥とワインはリクが持ってきてくれるはずだし、ピザとサラダの材料はアヤとカズが調達する予定になっている。ビーフシチューとマカロニグラタンを調理中。いい匂いが部屋中に立ち込める。
 鬼のように料理をしているけれども、こうなる前は、さほど料理をしたことはなかった。たまに気が向いた時にクッキーやマドレーヌを焼くくらい。でも、もうデパートでアップルパイを買うこともないし、ベーカリーで焼きたてパンを見ることもない。食べたければ、自分で料理するしかないから、自然とレシピが増えていく。家電好きが幸いして、プロ仕様のオーブンにエスプレッソメーカーにフードプロセッサーなど、カフェが開けそうなくらいの機器がある。

 ピンポン、と呼び鈴が鳴る。急いで玄関に駆け寄り、覗き穴で確かめる。リクが来た。ドアを開けると、両手に大きな袋を提げていた。
「いらっしゃい」
「いいものが手に入ったよ」
 リクは靴を脱ぎながら、機嫌良さそうに言って、袋を玄関に置いた。
「えっ、なあに? あ、シャンパンだ!」と、私は袋の中を覗いた。ボトルが何本も入っている袋の銘柄を見るとシャンパン。シャンパン好きな私に、素敵な贈り物だ。
 リクは私の部屋の向いに住んでいて、元々は歯科医だった。私とリクは同じマンションに何年も住んでいたのに、知り合ったのは世の中がこんな風になってからだ。
 私は大学を出て、仕事も決まっていなかったので、毎日ぶらぶらと退屈に過ごしていた。
 親には大学院に行くよう勧められていたけれども、研究者になるほど学業が好きなわけじゃないし、かと言って、会社勤めも自分には向いているようには思えなかった。だから、いわゆるニート状態で就職活動をするでもなく、日がな一日、今日は何をしようかとぼんやり散歩したり、スポーツクラブに通ったり、ベランダでゆったりコーヒーを飲んだりと、好きなように暮らしていた。
 私は一人娘で、まあ女の子だししばらくそれでいいだろう、と生活費は親が出してくれていた。浪費家ではないけれど、私は昔からお金について考えるのが面倒で、お金の計算は大嫌い。傍から見ていればひんしゅくものの暮らしなんだろうけど、他人に迷惑をかけているわけでもないし。将来何をして暮らしを立てるのかなんて、気持ちがいいくらいな~んにも考えてなかった。
 結局、世の中がすっかり変わってしまった。良い学校を出て、良い会社に勤めて、または結婚をして子供を育てて、なんていうお決まりのライフスタイルは崩壊したと考えてもいいし。スーパーやデパートの食品が底をついたら、米でも野菜でも、一から自分で育てなくてはいけない。
 
「ねえ、外、危なくなかった?」
「ああ、大丈夫。雪が積もってから、めっきりやつらの数が少なくなったよ。今度、一緒に外に散歩に行こう。たまには表に出ないと」
 私は早速、冷やしたシャンパンをグラスに注いだ。乾杯、と二人で言ってあおる。綺麗な色。透明な水に、薄く黄金を溶かしたような。清涼感のある喉越し、ふわりと鼻腔に香るぶどうの香り。
「ん~、おいしい」と、私もだんだんご機嫌になってきた。
 シャンパンを飲みながら、リクの顔を観察する。髪は栗色に染めて、短くカットしている。学生時代にフェンシングをやっていたせいか、細身で、少しスポーツマン的な雰囲気。どちらかと言うと柔和で、ゴツイところはない。背は私より頭半分高いくらいで、男性としてはあまり背の高い方ではない。
 でも、大きい人だと威圧感を感じて落ち着かなくなるから、私としては好ましい。洋服は、さすが高給取りだけあって、いつもブランド物を着ている。男の着る物なんてよくわからないけど、ジャケットのタグに、名前だけ聞いたことあるようなブランド名がついている。今日は黒いセーターとパンツで決めている。 
 都会暮らしだから、隣近所に住んでいても交流を持つどころか、お互いの顔を知らないのも当然だった。廊下で挨拶した記憶はあるけど、彼の顔すらよく見たことはない。
 そもそも知り合ったのは、やつらが現れてから1週間経つ頃だった。ホットケーキミックスの粉を溶いていた時に呼び鈴が鳴り、ものすごくびっくりした。恐る恐る外を覗くと、リクが立っていてこう言った。
「あの、生きてますか」
 それで、私はインターホンから返事をした。
「はい」
「向いの部屋に住んでいる、八神と言います。不躾なんですが、醤油を貸してもらえませんか」
「……醤油?」
「はい、醤油です。あ、なかったら別にいいんですけど」
 私は普段、知らない人を部屋にあげないくらい用心深い性質だったけれど、リクの雰囲気は危険そうではなかったし、今起こっている現象について人と話をしたかったので、鍵を開けて部屋にあがってもらった。
「良かったら、ホットケーキを召し上がりません? 今、ちょうど焼くところなんですけど」
 リクは最初ためらったけれども、彼も人と話したい様子で、結局一緒にホットケーキを食べた。コーヒーもいれて、少しお互いに打ち解けて、色々な話をした。食料の買い置きがなくて困っている様子だったので、お醤油だけではなくお米も半分に分けてあげると「いや、ここまでしてもらうわけには」とリクはしきりに遠慮したけど、無理に持たせて帰した。それから、時々話しをして、物をあげたりもらったりするようになった。

「オレ、君のこと、前から知っていたんだ」
「え?」
「あの、醤油借りに行った前からってこと。たまにスーパーとか公園とかで見かけて。あ、向いの部屋に住んでいる女の子だ、って。ベランダでお茶してるのとか、見えたりさ。働いたり、学校に行っている様子もないし。毎日何やって暮らしているんだろうとか、気になってた」

    

お試し版はここまでです。


  

聖域(ゾンビストーリーズ)

 

 

のお試し版でした。

 

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