ママチチ(プレビュー)

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この作品は小説です。

2014年8月に出版した作品です。 

 

ママチチ


【作品紹介】

ゲイバーのママとして働く女装癖のあるブ男、西田正美。 

シンママと本気の恋愛、そして、結婚を望むが・・・ 

オネエ言葉で女装する変わった父と、頑なな娘の親子関係を綴る、異色のハートフル・ファミリードラマ。笑いあり、涙あり、感動ありのストーリーをお楽しみください。 

 


   

 1

 

 西田さん、先日お会いした金本と申します。突然のメールですみませんが、折り入って、翼さんのことでご相談したいのです。

 

 翼さんは、今、僕のところに来ており、ある噂のせいで苦しんでいます。その噂とは、ほかならぬあなたのことです。翼さんのお母さんと再婚したいということを、彼女から聞いています。失礼ながら、あなたがゲイバーを経営して、女装しているということも聞きました。僕自身は、そのことについて何の含みもありません。

 ですが、再婚相手のお父さんが女装癖のあるゲイだという噂がクラスで広まり、そのせいで彼女はクラスメイトからひどいイジメを受けています。最初はたあいない陰口でしたが、元々、彼女を快く思っていないグループがおり、暴力をふるうなど、イジメがエスカレートしています。翼さんはそれに耐えきれず、お母さんにも相談できず、彼氏である僕の元に逃げ込んできました。

 

 翼さんは、あなたとお母さんの再婚について反対していますが、それはこれ以上、噂が広がって人に知られてしまうのをおそれているからです。彼女は傷ついており、誰とも話したくないと言っています。でも、僕にだけは心を開いてくれています。僕はまだ大学生ですが、翼さんと真剣におつきあいしています。高校生なのは承知していますので、きちんと節度をもっていますから、安心してください。

 彼女は僕以外誰も信頼しておらず、誰とも会えない精神状態です。だから、しばらくは僕に任せてください。元の明るい彼女に戻るよう、精一杯、お世話します。

 ついては、一度、お会いしてお話できませんか? 彼女はお母さんにはまだ話さないでほしいと言っているので、僕としてはまず、あなたにご相談したいのです。XXという喫茶店で、5時に待っています。

 

 

 西田正美は、バー『再会』のカウンターの中に立っていた。ロココ調に統一されたインテリアの店内に、シャンデリアが天井できらめいていた。バーに備え付けの鏡を一瞥すると、西田は耳元のアネモネの髪飾りの位置を直し、ウィッグの巻き髪が紫色のドレスの上に揺れるのを見つめた。鏡の中には、女性的な装いをした――剃り跡が青々としたあご、濃い眉毛の――中年男が映っていた。そして、「いつもの」と言って、ハイボールをカウンターの前にいる赤い皮のミニスカート姿のおやじにそっと差しだす。

 そのおやじは、カウンターの上のハイボールには目もくれず、興奮した声で隣に座っているハンチング帽の男に言った。

「もうミツエさんったら、つぎからつぎに男をとっかえひっかえして、うらやましいったら、ありゃしないわぁん! わたしなんてカレシもできないし、すっかりご無沙汰よぉ。一体、どうやったら、そんなビッチになれるのぉ? 秘訣を教えてぇ」

 西田はカウンター越しに、赤いミニスカおやじに言った。

「スギちゃん、嫉妬はみっともないわよ? カレシなんて心を磨いてピカピカにしていれば、向こうのほうから寄ってくるものよ。ピュアさが足りないのよ、ピュアさが。あなたって、いつも打算で男を選んじゃうじゃないの。打算なんてね、バレるものよぉ。恋って、そんなものじゃないの。わかる? わかんない? あ、っそ。いやあねえ、水商売長いと、スレてきちゃうから、うぶだった頃の気持ちをすっかり忘れちゃうのよね」

 ミツエ、と呼ばれたハンチング帽の男が、我が意を得たり、としゃべりだす。

「ママ、そのとーり! あたし、こう見えてもおつきあいしたら、一人に対しては一人だけよ。好きになったらその人しか見えないもん。こう見えても、尽くすタイプなんだから、あたし。でも、そんなのって考えたら当然じゃない? 体は二つもないんだから、いっぺんに二人、三人なんて相手にできないじゃないの。ねえ、ヨッチャン?」

「んだなあ。ところで、ママは最近どうよ? ママの恋バナ、聞いてみてぇな」

 皆の会話を黙って聞いていた、アリスコスチュームの男が言った。金髪のウィッグ、水色のエプロンドレスに白いタイツ、黒い厚底の靴。そして、頭の上には大きな水色のリボンが揺れていた。

 

 西田はグラスを拭きながら、目をくりくりさせて答えた。

「アタシ? もちろんいるわよ。今、すっごくかわいい高校生の女の子がいるシンママと恋愛中。ひょっとしたらねえ……アタシ、結婚するかも!」

「えっ。ウッソー、ホント?」とミツエ。

「高校生の娘だなんて、大丈夫なのかい、ママ? 一番難しい年頃だべさ。ものごころつくかつかないかの子なら、なついてくれるかもしんないけど、そんな大きい子だら難しいべ? オネエなパパなんて、なあ?」

 ヨッチャンの言葉に、西田は答えた。

「そりゃあね、アタシもちょっとは考えたわ。一筋縄じゃいかないのもわかってる。でもね、アタシ、今回の恋愛、今までとは違うと思ってる。アタシ、バイセクシャルだし、女装してるし、家庭を持って、子供なんてきっと一生できないって、とうにあきらめてたのよね。でもこのくらいの年になると、いろいろ考えちゃうのよ。家庭がほしいな、とか。もしアタシが本当の自分を隠して、普通の結婚をして、普通に奥さんと子供がいる人生を送っていたらって……若い頃はそんなものなくっても、本当のアタシのままで生きていくからいいって思ってた。強がりじゃなくて、本当にそう思っていたのよ。それでも本当はね、アタシ、もし家庭が持てるなら、娘がほしいと思ってたのよぉ。娘って、よくない? 男の子なんてね、アタシ、育てる自信ないけど、女の子を育ててる自分なら、思い浮かぶの。お洋服を一緒に買いに行ったり、お化粧の仕方を教えてあげたり、スキンケアを一緒にしたりね。ね、素敵でしょう? 今の彼女とね、本気の恋愛になってきたとき、アタシ、家庭をつくって、娘が持てるかもしれない、って思ったら、もう止まらなくて。それにね、彼女はアタシのこと、深く理解してくれているし、一緒にいると落ち着くの。こんな出会いなんて一生探しても、もうきっと、アタシには訪れないと思う。だから、大事にしたいの」

 

 西田の話に聞き入っていた面々は、感動をあらわにした。

「やーん、ママ、わたし感動しちゃったわぁん! ママったら、そんな真剣な恋愛をしてたのね。わたし、応援するぅぅ!」とスギちゃん。

「いい話ねえ……家庭、かあ。あたしもすっかり忘れてたわ。ねえねえ、娘さんって、どんな子なの? もう会った? なんだったら、格安でまとめて素性調査もしてあげるわよ。あたしの経験から言わせてもらうと、恋愛に夢中になっているときほど危ないのよ。相手が何を隠しているのかなんて、わかんないんだから。籍を入れる前に、相手のことはよく調べなくちゃね」

「ミツエさん、変なところで商売っ気出さんでくれよ。せっかくママの純愛バナを聞いて、ロマンチックな気分になってたのにさ。探偵さんは、因果な商売だわな」

 ヨッチャンが、ミツエを白い目で見た。 

「んもぉ、あたしはママのことを心配しただけ。探偵はね、人の裏側見る仕事だから、酸いも甘いも噛み分けてるの! あたしだって、もちろんママのことは、応援するわ」 

 

 西田は、常連客たちの反応を見て、やわらかい微笑みを浮かべた。

「みんな、ありがと。アタシ、絶対しあわせになってみせる! ところで高校生の子、翼ちゃんって言うんだけど。一度だけ、彼女がお店に連れてきたことはあったんだけど。そのときは、ただのお友達ってことでね。で、こないだ、ようやく正式にカレシとして紹介されたのよぉ」

「どんな子だった? ママ、まさかいつもの格好で行ったのかい?」とヨッチャン。

「パンピーな姿で行こうかと思ったけど、素のままのアタシを見てもらいたかったから、いつもどおりの格好で行ったわ。彼女もね、それでいいって。……かなり、驚かれたわねえ。レストランでね、再婚を前提につきあってまーすって言うと、『こんな人が継父になるなんて、イヤだ!』って翼ちゃんが言って。はっきりした性格の子なのよ。でも、アタシ、そっちのほうが好き。裏でこそこそ言われるよりも、いいじゃない? それでね、アタシ、再婚したら毎日お弁当も作ってあげるし、もう家事をやらなくってもいいのよって。ほら、今まで母子家庭で、彼女は家事苦手な人だから、翼ちゃんがぜーんぶやってきたのね。だからしっかりしてるのよぉ。それでアタシね、翼ちゃんに『ママみたいなパパだから、これからはアタシはあなたのママチチよ、なーんてね』って言ってみたの。そうしたら、翼ちゃん、ポカーンとしちゃって。『オヤジギャグ、うぜえ』って、そのままレストランを出て行っちゃったのよ。ギャグ飛ばして、大失敗だったわぁ。アタシ、なんでもギャグにしちゃうから」

「もーママったら、女子高生にそんなオヤジギャグかましたら、どん引きするに決まってるじゃないのよ」とミツエ。

「いいじゃないのよぉん、それがママの持ち味なんだもん。まずは、ありのままのママのことを知ってもらわないとはじまらないじゃないのよぉん。あとはそこからよねん、ママ?」とスギちゃんが励ますと、西田は首をコキコキと鳴らしながら答えた。

「モチよ! オネエのいいところは、めげないところなんだから。アタシ、愛のために頑張るわ! 彼女も今から来るから、みんな、あったかい声援をお願いね! うふ、あらやだ、アタシ、超テンションあがってきたー。やっぱり、恋のチカラかしら?」

 

 西田がバーの出入り口を見守っていると、カランコロン、という鈴の音とともに、ピンクのスーツ姿の中年女性が入ってきた。オカッパに切りそろえた黒髪はツヤツヤとしていて、目はキラキラ、若々しいオーラが漂っていた。

「こんばんは~。マシャミーン、会いたかったよー!」

 女性は西田の顔を見ると、カウンターに駆け寄ってきて、飛びついた。

「ヒロコさん、おかえりーんご! お仕事、お・つ・か・れ・さ・ま! 何飲む? とりあえずビール?」

「ありがとー、じゃあビールおねがーい。マシャミンの顔見ると、いやされるぅ。もう今日、わがままな上司にふりまわされて、わたし、お疲れなのー。わたしを癒してぇ」

「もー、ヒロコさんったらぁ、お・ちゃ・め・さ・ん! 癒しビーム、ビビビビー! ……ほら、中ジョッキ」

「くぅ~、いっやされるぅ。マシャミンと一緒になったら、わたし、毎日バラ色になれそう」

「もう、ヒロコさんったらぁ、みんなあきれて見てるじゃないのぉ」

「あらぁ、ごめんなさーい。こんばんは、マシャミンの彼女のヒロコです!」

 西田と、西田の彼女と名乗ったヒロコのラブラブトークに言葉を失っていた常連たちは、ようやく口を開いた。

「ちょっ、なんなの、このふたり? あたし、思わずフリーズしちゃったわよぉ。なによ、このラブラブさ。ありえなーい」とミツエ。

「テンションがママそっくり。こりゃあお似合いだわ。はじめましてー、ヨッチャンでーす。公務員でーす」

「わたしはスギちゃんって呼んでねえ。向こうの通りで喫茶居酒屋を経営しているのよぉん。ここが居心地良すぎて、店ほったらかして入り浸ってるけどぉ。ちょくちょくお目にかかると思うんでぇ、よろしくぅ」

 常連たちのオネエ言葉とプリプリの女装にひるむ様子も見せず、ヒロコは感激したように言った。

「常連さんなんですよねー? マシャミンからいっつもお話、聞いてますぅ。わたしこそ、よろしくお願いします。やーん、マシャミン、みなさん超フレンドリーだし、うれしー! わたし、ちょっとドキドキしてたけど、今日、思い切って来て良かった! ……そうそう、あのね、今度うちに来て! 翼にマシャミンのこと、わかってもらいたいし。翼、まだ受け入れられないけど、マシャミンのことをちゃんと知ったら、絶対好きになると思うんだ。翼、マシャミンの見た目でびっくりしただけで、中身わかったら再婚、許してくれると思う! だって、マシャミン、わたしより女らしいし、繊細だもん。わたしなんて、仕事ばっかで翼に家のことぜーんぶ任せてきちゃったし。マシャミンがうちに来てパパになったりママになったりしてくれれば、あの子もきっとしあわせになれると思うんだ」

「んもぉ、ヒロコさん、アタシのこと、買いかぶりすぎよぉ、もっと言って!」

 西田はヒロコの言葉に、体をクネクネして喜びをあらわす。紫色のドレスの裾のレースが揺れた。

「ね、ヒロコさん、さっきママと話してたんだけど。娘さんってどんな子なの? 反対してるんでしょ?」とミツエがヒロコにたずねる。

「うちの子ね、反対はしてるけど、年頃の子って再婚に反対するの、普通だしね。見て、見て。翼って言うの。軽音部入っててライブとかするのよ。料理も洗濯もなんでも家のことできるし、わたしよりしっかりしてるのよ」とヒロコはスマートフォンを取り出して娘の画像を常連たちに見せた。

「え、めっちゃかわいーじゃないのよぉん! てか、美人さんねぇん。背もすらっとしていて!」とスギちゃん。

「本当、しっかりしてそうな、きれいなお嬢さんだなあ。めんこいなあ」とヨッチャン。

「ヒロコさんってば、すごく子煩悩なのよね。チャンスがあれば娘の写真、見せびらかして自慢するの。アタシも、はじめて会ったとき、二時間も翼ちゃんの自慢話を聞いちゃった。そこから、アタシたちの恋がはじまったのよね、思えば……」

「ホントよねえ。マシャミンったら真剣にわたしの話、聞いてくれて『あ、この人、なんていい人なんだろう』って思ったもん。あれからマシャミンのことが気になって気になって、ふふ、自然にくっついちゃったーって感じ?」

「ホント、アタシたち、磁石みたいに引き寄せられたのよぉ。もう、これってデスティニー? な勢いで! 目と目が合ったら火花が散ったもの」

「マシャミン……」

「ヒロコさん……」

「マーシャミン」

「ヒーロコさん」

 じっと見つめ合うふたり。

 

「ママ、あーた、今、仕事中、仕事中! ジントニック、お願いよぉん!」

 いつまでも終わらないふたりの恋愛空気感(ラブラブモード)を破るように、スギちゃんがオーダーをした。

「はぁい、おじゃま虫さんがいるから、あま~いふたりの時間はお預けね、ヒロコさん」

「ううん、いいのよ、マシャミン。わたし、わかってるから。今日はうちに誘いにきただけだし、遅くなると翼が心配するから、帰るね」

「気をつけて帰ってね。翼ちゃんにも、よ・ろ・し・く!」

「らじゃー! じゃ、みなさん、おやすみなさーい。らびゅー!」

「らびゅー、ンチュッ」

 西田がエアチューを投げ、ヒロコは軽やかに帰っていった。

 

 

お試し版はここまでです。


  

 

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