続・おにぎりがたべたい 待ち時間に軽く読む短篇集・2(プレビュー)

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3編収録。

2013年5月に出版した作品です。 

 

続・おにぎりがたべたい(待ち時間に軽く読む短篇集・2)

 


【目次】 

○続・おにぎりがたべたい

「おにぎりがたべたい」の俺の、その後の運命は……。
え? LDF特例法? 『あなたの命を守り隊』って、一体何スか?

○遠雷

ゾンビのいる日常の始まり。
――私は、こんなことが起こる日を、ずっと、待っていた。そう、死人の群れが街を覆い尽くすような日を予感し続けていた。

○アビラウンケンソワカ

日本昔ばなしテイストのお話。
冬の間、深い雪に閉ざされる寒村。吾平の妻のあぐりが病にかかり、医者を呼ぶために峠道を越えねばならぬ。だが、その峠道には……。

 


 

 どん、どん、どん。

 

 どん、どん、どん。

 

 どん、どん、どん。

 

 狭いアパートの部屋の一室で、寒さに震えながら布団に包まり、腹が減って文字通り死にそうな俺がいくら無視しても、ドアを叩く音は止まなかった。

 胃がよじれそうなほど飢え過ぎると、次第に体が動かなくなる。ゲームでライフが一ポイントずつ減っていくように、自分が少しずつ死んでいくような感触が味わえる。そして、考えることを放棄して眠ろうとしていたのに、その音は俺の眠りを何度でも覚まそうとする。

 ――この世で、俺に用がある人間なんて、いやしない。取り立て屋以外は。

 そう思って、俺はドアを開けなかった。財布の中には全財産の23円。食う物もなく飢え死にしかかっている俺に、何を支払えと言うのだろう。

 こんなにしつこくドアを叩くなんて、サラ金か? だが、俺はサラ金に借金などしていない。なんの用だか知らないが、普通、30分もドアを叩き続けるかぁ? それでもその音を無視し続けると、ドアの向こう側から、甲高いアニメキャラのような女の子の声が響いた。え? 女の子?

「那須さ~ん、那須要さ~ん、大丈夫ですかぁー! 緊急時のLDF特例法により、安否確認入りまーす!」

 誰だかわからない女の子の声が、俺の名前を呼ぶ。そして、カチリと鍵を開ける音がすると、ドアが開く。開いたドアから入り込む冷たい外の空気と、久しぶりの明るい日差しに、俺は布団の中で身を震わせながら目を細めた。玄関に目を向けると、紺色の制服を着た女の子が立っていた。そこに立っているだけで、空気が変わるエネルギーを感じる。若い。どう見ても10代だ。こんな知り合いは、当然いない。顔は童顔で、声に似つかわしくかわいい部類だ。

「こんにちは~! 『あなたの命を守り隊』でぇす! 那須さん、お体は大丈夫ですか? 失礼しま~す!」

 女の子はやけに明るい声で、玄関で靴を脱いで部屋に上がり込んだ。

 なんだろう。俺は今、夢を見ているのだろうか。見知らぬ若い女の子に、ある日突然家に入って来てほしいという願望が見せている幻なのか?

 空腹で起き上がる気力のない俺の傍に、その女の子はやってきて、俺の顔を覗きこんだ。そして、女の子は俺の額に手を当てて「ちょっと、熱がありますね」と呟いた後、俺の右手を取って脈を測った。

「最近、ちゃんと食べていましたか?」

 女の子は、優しい声音で尋ねた。

 夢だ。幻だ。彼女いない歴イコール年齢の俺の願望が、人生の最後に見せているマボロシ。死神が俺を哀れんで、「ちょっといい夢、見させてやろう」と思ったに違いない。

 だが、俺の手首に触れている女の子のぬくもりは、どうも夢ではない。温かい。それで、試しにマボロシに向かって答えてみる。

「4日間、何も」

 俺は首を振って答えたが、喉が乾いていてかすれ、自分の声じゃないように響いた。そもそも、まともに人と話したのは、いつだったろう。声を出したことで、現実感が戻ってきた。彼女は、やはり夢や幻ではない。

 そして、女の子は何か小型の機器を取り出し、スイッチを押すと、急に業務的な声に変えて言った。

「ここからの会話は記録を取ります。LDF、HS方面隊、第二支援団所属、一般救助隊員、アサダ・マホ、隊員識別番号S05236955、2013年3月20日、14時25分、見守りフェーズ1から、フェーズ2へ移行、要支援者の意思確認に入る」

「は?」

 俺は、彼女が一体、何をしゃべっているのか、さっぱり理解できなかった。俺、なんとなく、逮捕される感じ? 俺のような無職は歩いているだけで通報されるが、とうとう部屋で寝ているだけで逮捕される世の中になったのか。

 女の子は、俺がポカンとしているのを無視するかのように、話を続ける。

「……あなたは長期に渡る寒さと空腹で、体力を消耗してます。かなり体が衰弱しています。このままでは、命の危険もあります。あなたには、LDF特例法により、政府から手厚い支援と人生の再設計ケアを受ける権利があります。これから、まずあなたの自由意志に基づいて、LDFに支援を要請するか、しないか、あなたの意思確認を行います。なお、この場で記録されたあなたの発言は、法廷で不利に扱われる場合があります。よく考えた上で、回答をお願いします。また、あなたは要支援者と認定を受けました。今断っても、一定期間内に再度支援を要請することは可能ですから、ご安心ください。何か、質問はありますか?」

 やはり、俺は彼女が何を言っているのか、まったくわからなかった。

「あの……LDFって、なんのこと? 俺、なんかしたの?」

 女の子は、自分の仕事に誇りを持っている人特有の生真面目さと自信を持って、俺の質問に静かに答えた。

「LDFはLife-Defense Forcesの略で、通称『あなたの命を守り隊』です。我々は、あなたを助けに来ました」

 ――我々は、あなたを助けに来ました。

 女の子は、まっすぐな目で、俺を見つめる。真摯そのものの態度だ。

 やはり何のことか、俺にはわからなかったが、この言葉だけは俺の心にしっかりと届いた。誰かが、俺を助けてくれる。助けてくれる人、助けようとしてくれる人が存在していた、ということ。

 俺にとって「外の人」は、何かを奪い取っていくだけの存在だった。金、労働力、情報、その他なんでも、俺が持っているものを。そして、俺自身、自発的に誰かのために何かをしたり、助けたことはない。それに、他人との関係はこれまでかなり粗末にしてきたから、助けを当てにできるわけもない。雑な生き方をしてきた俺には、誰かに助けを求めようという発想すらなかった。何より、「甘えるな」とだけは、言われたくなかった。落ちこぼれの、最後のプライドだ。

「あなたの命を……守り隊?」

 まんま、わかりやすいネーミングだが、一体、何の組織なんだ? 俺はよほど不信感を顔に出していたのだろう。女の子は、笑って、安心させるように言った。

「はい! 『あなたの命を守り隊』は先月、発足したばかりですからねぇ。ご存じないのも仕方ありません。広報が頑張って、テレビや新聞など各種メディアを通じて大々的PR活動を行なっていますが、お宅にはどちらもありませんし。あ、私たちは厚労省が創設した組織で、特別職国家公務員です! アヤシイ団体とかじゃないから、安心してくださいね」

 自分で「アヤシイ者じゃない」という奴は説得力がないものだが、俺は仕事をクビになって以来、外のことに関心がなく、テレビも新聞もない生活をしていた。携帯電話からニュースはチェックできたが、もともと政治経済に興味のない俺がそんなニュースをキャッチできるわけもない。とりあえず信じるしかないが、勝手に人の部屋に上がり込んでいいのだろうか。プライバシーの侵害とかなんとか、最近やたらうるさいじゃないか。

「うん……それで?」

 

 

お試し版はここまでです。


  

 

続・おにぎりがたべたい(待ち時間に軽く読む短篇集・2)

 

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